バスケ留学の先駆者 12年のプロキャリアを経て思う、日本バスケの未来
目次
バスケ留学の先駆者 仲西淳が歩んだユニークなキャリア
──自己紹介をお願いします。
仲西
SHOEHURRY! ディレクター&スキルデベロップメントコーチ、RHYMES BASKETBALL ACADEMY コーチをしています仲西淳です。
bjリーブやBリーグでプロ選手として12年プレーした後、バンビシャス奈良で通訳兼スキルコーチ、ライジングゼファー福岡でGMを歴任し2021年よりSHOEHURRY!に参画し、選手のマネジメントや、海外とのリレーションを担当したり、コーチをしたりしています。
オフシーズンやシーズン中にもSHOEHURRY!で契約しているBリーガー40名へ指導する他、全国各地のアンダーカテゴリーや社会人選手に指導し、拠点である福岡ではFUNdaMENTAL Clubというアンダーカテゴリー向けのスクールを運営しています。
──これまではどんなキャリアだったのですか?
仲西
出身は東京都世田谷区です。
小学校3年生からマイケル・ジョーダンの影響を受けバスケを始め、世田谷区梅ヶ丘中学校*1 を卒業しました。
バスケを始めた頃からアメリカへの憧れがあり、中学校3年生の夏にアメリカで行われたジョーダンキャンプに参加し実際にマイケル・ジョーダンやNBA選手たちをみたり、アメリカの選手達とプレーしたことでアメリカへ留学することを決め、高校からアメリカへと留学しました。
オクラホマクリスチャンアカデミーに入学し、その後ロサンゼルスにあるコーストクリスチャンハイスクール、レドンドハイスクールにトランスファー(転校)し、大学はサンタモニカ短大へ進学しました。
──そこから逆輸入選手として日本でプロキャリアをスタートさせるわけですね。
仲西
そうですね。
短大卒業後に日本に帰国し、2005年に開幕したbjリーグのドラフト1巡目で東京アパッチに入団することができました。
その後ライジング福岡→大阪エヴェッサ→ライジング福岡→岩手ビッグブルズ→ライジング福岡→東京サンレーヴス→山形ワイヴァンズと渡り歩き、2017年にプロキャリアを引退しました。
引退後は、バンビシャス奈良で通訳兼スキルコーチやライジングゼファー福岡でGMをさせていただいたり、Bリーグ引退後に3x3をプレーしていた経験から3x3LEO BLACKS SAGAのディレクターなども務めさせていただきました。
2021年よりご縁があり、SHOEHURRY!に参画しディレクターとコーチをさせてもらっています。
*1 世田谷区梅ヶ丘中学校は現在Bリーグで活躍する選手を多数輩出している東京都内の名門中学
海外経験で学んだ『自己表現』と『行動力』の重要性
──ジョーダンキャンプやアメリカ留学時をきっかけに得た一番の学びはなんでしょうか?
仲西
中学校3年生で参加したジョーダンキャンプ*2 が人生の分かれ道だったと思っています。
元々周りに気を遣ってしまうシャイな子供だったのですが、ジョーダンキャンプに参加した際に、パスばかり回していたらコーチや選手達に「なぜ気を遣ってるんだ、お前は何ができるのか見せてくれ」と発破をかけられたんです。
そこで思い切ってプレーしてみたら活躍することができて、その活躍にコーチも選手も盛り上がってくれたんです。
そこで何か吹っ切れて、「俺はこれでいいんだ!」とすごく自信がつきました。
日本は「これをしてはいけない」「あれはダメだ」という制限が多いように感じますが、アメリカには自分自身の持ち味を出していくという文化の違いがあり、常に「自分は何ができるのか」というところを見られていましたね。
自分を表現するということをアメリカではすごく学んだと思いますし、日本人が苦手とする分野なので伝えていきたい部分です。
また、キャンプを経てアメリカに行きたいと親や学校の先生に伝えてからは、納得してもらうために行動が変わるようになりました。
勉強は苦手でしたがとにかく必死に英語の勉強を頑張るようになりましたし、本屋さんに行っていろんなアメリカや留学に関する本を読み漁って情報を集めたり、街で外国人を見つけたら自分から声をかけたりするようになって。
そういった行動の積み重ねで自分自身が成長するのも実感できましたし、言葉よりも行動することで信頼してもらえるんだということを感じました。
アメリカに行ってからも、自分なりに必死に勉強した英語は生の英語には全く通用せず撃沈し、最初の一年は特に語学の部分ですごく苦労しましたが、それまで苦手だった勉強を必死に頑張った経験はすごく自信になっていますし、その後の人生にも良い影響を与えてくれていると思います。
何か人よりも秀でたものを身につけたり、違う経験を積もうと思う時は、人の何倍も行動し努力しなければいけないなということを学べました。
*2 マイケル・ジョーダン フライトスクールとして夏に世界中の育成世代を対象にしたマイケル・ジョーダン主催のキャンプ
『高い基準』と『ディテールへのこだわり』
──現役時代は沢山のコーチのもとでプレーしてきたと思いますが、その中でも影響を受けたコーチはいますか?
仲西
もちろん全てのコーチに影響を受けて今の自分がいますが、その中でも名前を挙げるとしたら、ジョー・ブライアントコーチ(コービー・ブライアントの父)、ジョゼップ・クラロス・カナルス(通称:ペップ)コーチ、桶谷大コーチ、天日謙作コーチです。
ジョー・ブライアントコーチはとても優しい人でしたがとても厳しいコーチでした。
そしてとにかく全ての基準や比較がNBAでした。
ゲームの中で必要とされるスキルやIQ、エクスキューションなどプロ選手なんだから出来て当たり前だろという感じです。
それでもそうやって基準を引き上げてくれたことが私自身のキャリアにおいてもすごく良い影響を与えてくれましたし、ジョー・ブライアントコーチとはベテランになってからまた一緒にバスケをしたかったなと思います。
当時はまだ若くてその基準に私自身が達していなかったので。
時には厳しい言葉で檄を飛ばされることもありましたが、オフコートでの愛情や、モチベートしてくれる力などは本当に印象に残っています。
常にプロ選手として高い基準を持ってプレーすることの大切さは彼から学びました。
次にペップコーチです。
ライジング福岡での選手時代に初めてヨーロッパ出身のコーチの元でプレーして、ものすごくハードなディフェンスには衝撃を受けました。
強度の高いプレッシャーやその中での細かな拘りなど。
情熱あふれる指導や、オフコートでの素晴らしい人間性も含めて影響を受けたと思います。
私がライジングゼファー福岡でGMを務めているときも、彼とディフェンスでチームカルチャーを一緒に作っていきたいと思い、HCをお願いしました。
そして、桶谷コーチと天日コーチからはディテールの大切さを学んだと思います。
チームでバスケをすることの大切さや、ポジショニングやスペーシングの一つ一つに拘り、明確な意図を持ってプレーすることを学びバスケットボールの視野がすごく広がりました。
コーチ達から学んだ『高い基準』と『ディテールへのこだわり』というのは、私が今ワークアウトを行う際にも選手達に常に声をかけている部分です。
また、近年ではアメリカや欧州スペイン、イタリア、フランスなどにも行く機会が増え、海外のコーチからも色々と学ぶ点が多いですね。
彼らもやはり同様で、求めてくる基準の高さだったり、細かさというものを追求することは変わらないですね。
元NBA選手だったり、世界的に知られているアカデミーのコーチであっても、『高い基準』と『ディテールへのこだわり』に加えてそれぞれの『個性』を持っていて、それらを肌で感じて吸収させてもらっています。
『モチベーター』であれ
──マネジメントやコーチをしていて大事にしていることはありますか?
仲西
選手自身に気づいてもらえる、判断してもらえるような環境や状況を作ること、そして我々がモチベーターになってあげることです。
バスケットボールは全てのプレーをコーチが指示するものではなく、選手自身が判断することが求められる競技なので、コーチがある程度のレール(ルール作りなど)は引きますが、選手自身がしっかりと判断できるような環境や状況は作っていきたいなと思っています。
それは、競技以外の面でも同様です。
また、選手も人間なのでわがままであったり、逃げ道を作ろうとしてしまうと思いますが、自分にコントロールできることをコントロールしようと努力できる選手になれるように気づいてもらう働きかけはしたいなと思っています。
環境やチームメイト、またはコーチのせいにするのは簡単ですが、上手くいかなかったときに何がダメで何が良かったのか、何は自分にコントロールできて何はできないのかをしっかり理解できるようなサポートをしてあげたいなと思っています。
──気づくことができる人と、なかなか気付けない人もいますよね?
仲西
どうしても若い時は気づきづらいと思います。
私自身もそうでした。
でもそういったことに出来るだけ若いうちから気づけることで、よりポジティブに自分がやるべきことにフォーカスして取り組むことができるので、成長の幅も大きくなるはずです。
気づくことができる力も能力やスキルだと思いますし、我々のように気づかせてあげられる立場の人たちも増やしていかなければいけないと思います。
そして、選手を奮い立たせるようなモチベートをすることを大事にしています。
実際に私がアメリカ行くきっかけになったのも、ジョーダンキャンプに参加した時のコーチが認めてくれて「お前はアメリカでバスケをするべきだ」と言ってくれたことがきっかけでした。
言葉や行動で選手の言動も変わってくると思っているので、選手がもっとバスケをしたい、上手くなりたいと思えるようなモチベートをすることを大事にしています。
成長のヒント、それは『快適ではない場所』に隠れている
──海外の選手と日本の選手のマインドの違いや学ぶべき点などはありますか?
仲西
日本と海外の文化の違いというものはどうしてもあると思います。
特にアメリカの場合は、バスケで成功しなければ人生が終わってしまうというようなハングリー精神を持った選手が多くいたり、そこらじゅうでバスケができる環境や観ることができる環境があります。
しかし日本はバスケットが自由にできる環境は少なく、バスケをしなくても裕福に暮らせる豊かな国です。
そもそものバスケをはじめスポーツをするにあたってのモチベーションやマインドセット、スポーツのあり方が違うように思います。
ハングリー精神を持てと言っても実際にその境遇にいないと持てるものではないので、どうやって子供達のそういったメンタリティを育てていくのかは課題です。
また、日本ではハードにプレーすることがカッコ悪いというような文化もあるのかなと思います。中高生で思春期ということもあると思いますが、アメリカでは下手でもとにかくハードにプレーすることへのこだわりを持っているように感じました。
ハードワークする基準がまだまだ日本は低いですし、そもそもハードにプレーすることとはどういうことなのかというイメージもないように思いますので、ハードにプレーするということがどのようなことなのかは伝えていきたいです。
我々大人やコーチ達は環境やキッカケを与えることしかできないと思いますので、一つのチャンスへ賭ける気迫の大切さや、気持ちの表現方法、ハードワークとは、などを伝えていきたいですし、そういったものに触れる機会を提供していきたいと思います。
また、選手達には自らどんどん行動を起こして様々な環境に飛び込んでいってほしいと思います。
私自身もそうでしたが、自分が快適に過ごせない環境に飛び込むことで得られるメンタリティというのは何事にもとても重要です。
海外の選手に限らず、良いマインドを持った選手は好奇心があり、積極的に行動したり質問ができる選手だと思いますので、今よりも成長したいと思っている選手はとにかく積極性に行動してみて欲しいですね。
──いまの仕事を通じて最も嬉しいのはどんな時ですか?
仲西
スキルコーチとしては、選手の成長を見られた時はもちろん嬉しいですね。
私自身の目から見て成長を感じられた時はもちろんですが、アンダーカテゴリーの選手を指導している時などに、選手の保護者や関係者から子供達が上手くなりましたという報告を受けるのもとても嬉しいです。
日頃身近にいる家族などが成長を感じるということは変化している証なので。
また、選手の向上心触れられる瞬間はとてもやりがいを感じますね。
指導している中でもたくさん質問をしてくれたり、一つ一つのプレーからエネルギーを感じられるような、こちらのエネルギーを上回るエネルギーで選手が応えてくれた時はとてもやりがいを感じます。
プロ選手の場合であれば、ワークアウトでやった内容を試合でそのまま使って結果を残したとか、ワークアウトでやったことが良い結果に現れた時は嬉しいですね。
知らない人達からするとわからないであろう細かい変化でも、日頃からワークアウトなどをやっていると明らかに変化を感じれるような瞬間があったりするので、彼らの成長をサポートできていると思うと感慨深いです。
また、海外のコーチやビジネスパートナーと連携して、日本で何かを一緒にやり切ることが出来たときなどもすごく達成感を感じます。
英語という言語が、私自身の活躍の場を広げてくれていますし、海外挑戦して良かったと感じることの一つです。
実践でやり直しはないからこそ、『ゲームライク』な練習を
──Bリーガーだけではなく、子どもたちにもトレーニングを行っています。教える上での共通点や違いはありますか?
仲西
プロ選手にも育成世代の選手達にも共通することですが、前提となるイメージの共有はしっかり行うようにしています。
プロの選手に指導するときには特に選手と同じ景色(セイムページ)を見れているかということは意識します。
こちらがやりたいことを一方的に指導するのではなく、選手がしっかりと納得する形でワークアウトに臨めるように選手とコミュニケーションを重ねて、共通理解を持った状態でワークアウトすることを大事にしています。
育成世代の選手達に指導するときには、指導する年代にもよりますが、カテゴリーが下がれば下がるほど実際のゲームのイメージが乏しいため、ただドリルとしてこなすだけでなく、前提となるイメージをしっかりと伝えた上でワークアウトをすることを意識しています。
また、しっかりとゲームを意識したワークアウトをしてもらうようにしています。
日本の選手はすごく真面目で忠実なので練習のための練習になってしまったり、ドリルの中でミスをしないように周りの目を気にしながら恐る恐るやったり、少しミスをしたからといってやり直しをしたりします。
ただ実際の試合でやり直しはないですし、恐る恐るプレーしていてもいいプレーはできません。
ワークアウトの中でミスが起きるのは当然ですし、上手くなるためにはミスはつきものです。
ミスを失敗と捉えずそこからどう学び次に生かすかということと、仮に上手くいかなくてもそこからどう切り替えて次のプレーへと繋げていくかを大切にして欲しいと思っています。
実際のワークアウトでも、ドリブルミスやパスミスなどしても必ずシュートまで繋げてもらうようにしています。
過程ももちろん大切ですが、過程がどうであれ結局はシュートを決めなければいけない競技なので。
日本バスケの未来に求められること
──今後、日本のバスケットボールに求められることは何だと思いますか?
仲西
もっともっと世界レベルで戦えるように、誰しもが海外へチャレンジできるような環境が必要になってくると思います。
短い時間でも海外での生活を経験することで得られる体験価値というものは、その人の人生を豊かにすると思いますし、私自身もそうでした。
私自身はこれまでユニークなキャリアを歩んできたので、自分にしか伝えられないことがたくさんあると思っています。
そういった自分にしかできないこと、伝えられないことは大切にしていきたいですし、常に謙虚でアップデートし続けていくことで、接する様々な人たちにリスペクトを持って何かを伝えていけるような存在になっていきたいですね。
──マネジメントする側として、またコーチとしてはどのように進化していきたいですか?
仲西
まず、前提として選手と心からぶつかり合えるような存在になっていきたいです。
日本の文化として気を遣ったり遠慮して本心からぶつかり合えないことが多くあると思っています。
表面上の優しい言葉ではなく、本当の意味で相手のためになる言葉がけやモチベートをしていきたいですし、そのためにも選手と向き合って良い関係性を作れる人間になっていきたいですね。
そして、バスケの中で使う英語を各世代に浸透させていく取り組みをさらにしていきたいなと思っています。
バスケはアメリカのスポーツですから使われている言葉は基本的に英語です。
スキルや戦術的な用語も英語なので、そういった用語を知ることはコミュニケーションはもちろんバスケットボールIQの向上にも繋がります。
さらに、バスケット面だけでなく、仲間を鼓舞したりモチベートする上でも「Let’s Go!」、「Good D!」など日本語だとなんだか大きな声を出すのが恥ずかしくても、英語だとカッコよくて声を出しやすいとも思いますし、ハードワークにもつながるポイントになるのかなと思うので、バスケで使う英語の普及というのは力を入れていきたいと思っています。
できるだけ多く、海外挑戦する選手の後押しをしたり、バスケットボールに関わる人々をより豊かにしていけるようにしていきたいですね。
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