Bリーガーからスキルコーチへの転身 「日本のバスケをよりよく」するために自分が出来ること
目次
無名選手からプロ選手、そしてスキルコーチへ
──自己紹介をお願いします。
福井
RHYMES BASKETBALL ACADEMY ディレクター/コーチ|SHOEHURRY! スキルデベロップメントコーチ をしています福井航介です。
みんなからFOOK(フック)と呼ばれています。
Bリーガーとして3シーズンプレーした後、現在はコーチをしています。
SHOEHURRY!で契約しているBリーガー40名へ指導する他、ライムズバスケットボールアカデミーの選手、全国各地のアンダーカテゴリーや社会人選手に指導しています。
──これまではどんなキャリアだったのですか?
福井
小学校3年生からバスケを始め、中学校は地元埼玉県入間市の中学校を卒業、高校は全国でも強豪の北陸高校へ進学しました。
高校時代は全国大会のコートには一度も立つことはできず、万年応援席でした。
大学は教員になることを目指し神奈川にある桐蔭横浜大学に進学し、監督・コーチのいないチームかつ、関東大学4部リーグで4年間活動しました。
学生時代は目立った実績はありませんでしたが、好きだったバスケットボールを仕事にしたいと思い、無名からでもプロ選手になるという目標を掲げ、SHOEHURRY!のワークアウトに通うようになりました。
大学卒業後も1年半アルバイトをしながらなんとか食い繋ぎ、24歳の夏にご縁がありトライフープ岡山のサテライトチームに加入し、その後コールアップしていただきプロ選手としてのキャリアをスタートしました。
その他、さいたまブロンコス、岐阜スゥープスに所属し27歳で引退することを決め、ライムズバスケットボールアカデミー及びSHOEHURRY!でコーチとしてのキャリアをスタートさせました。
ありがたいことにオファーもいただき、そのままプロ選手として続ける選択肢もありましたが、「日本のバスケ界をよりよく」していくために自分にできることは何かと考えた時に、引退後はコーチをしたいをいう思いもあったため、選手としてではなくコーチとしての方がより貢献できるのではないかと考え予定よりもだいぶ早めにコーチの道に進むことを決めました。
プロ選手になる上で培った『マインドセット』
──SHOEHURRY!とはどのような出会いだったのでしょうか?
福井
そもそもの出会いはSHOEHURRY!を立ち上げた一人でもある、スキルコーチのマーク貝島さん(現:滋賀レイクスデベロップメントコーチ)との出会いでした。
マークさんが東京に拠点を移すタイミングで本格的にコーチとしての活動を始めるということで、ワークアウトしたい選手をSNSで募集していたところにメッセージを送りワークアウトをしてもらったのがきっかけです。
最初は1人、2人でマークさんにワークアウトしてもらっているところから、徐々に人数が増えていき、2019年のフロリダキャンプをライムズ株式会社(SHOEHURRY!を運営するライムズスポーツコンサルティング株式会社の親会社)で開催してくれるとなったところからSHOEHURRY!というプロジェクトがスタートしました。
──選手時代にSHOEHURRY!で過ごした期間はどうでしたか?
福井
常にプロレベルを意識したワークアウトをしていました。
一つ一つのメニューの強度や精度、細部にこだわり指導してもらっていました。
SHOEHURRY!が掲げている#HARDWORK #INTENSITY #ENERGY という3つのスローガンがありますが、これらを全てのワークアウトや日常生活のベースにしていたと思います。
実際にプロになってからも感じたことは、トップレベルの選手たちは一つ一つの練習へのエナジーが凄いです。
練習の中では常に大きな声が飛び交っていますし、1本1本のシュートへのこだわりや基礎的な練習に求めるレベルがとても高いです。
地味で毎日同じような繰り返しの練習こそ大切にし、ハードに練習しています。
色々なチームや選手を見てきた平さんやマークさんだからこそ、常にこのスローガンに対しては日々こだわりを持って取り組むことができたと思いますし、その土台があったからこそプロ選手にもなることができたのだと思います。
──現在はコーチとして活動していますが指導する上での拘りなどはありますか?
福井
まずは#HARDWORK #INTENSITY #ENERGY これらは大前提として強くこだわりを持っています。
日々ハードに練習に取り組む、高い強度で練習を行う、上手くなる・勝利するという目標に向かうエネルギーがなければ成長することは難しいと考えているからです。
選手が成長するためのキッカケや気づきは与えられることができても、やるかどうかは選手次第なので。
ただ選手に関わる以上、その選手がより良い方向に進めるように全力でサポートしたいと思っていますし、自分自身が常に良いエネルギーで選手たちを巻き込んで行き、良い手本となれるようになっていきたいと思っています。
──成長していく上でワークアウトに対する熱量や取り組み方など良いマインドセットが大切だということですね
福井
間違いありません。
Bリーグで活躍するトップ選手と一緒にプレーしたり、NBA選手のワークアウトを実際に見学してもワークアウトに対する取り組み方、バスケットボールへの向き合い方は本当にすごいです。
トップレベルの選手だからできるのではなく、それができるからトップレベルの選手になれるのだなと感じます。
良い選手であればあるほど、何か失敗したり上手くいかないことがあっても自分自身に矢印を向けることができますし、自分でコントロールできることをコントロールしようというポジティブなマインドセットを持っている人は多いと思います。
成長のためのキーワード、『再現性』と『スキルスタッキング』
──スキルトレーニングをする上で選手たちに大切にしてほしい考え方などはありますか?
福井
『再現性』、『スキルスタッキング』、この2つです。
まず『再現性』についてですが、スキルというのは、『いつ』、『どこで』、『誰が』、『どの』、『どのように』、『なぜ』、そのスキルを使うのかという理由づけが必要だと思っています。
チームの戦術の中で行われる駆け引きの材料としてスキルという引き出しをその時々に応じて使い分けることが大切だからこそ、偶然できる動きではなく、毎回同じように再現できる必要があると思っています。
そして、その『再現性』を高めるために重要にしているのがスキルの言語化です。
細かい動き一つ一つに名称をつけたり、対処方法を体系化して言語化することでパターンとして認識することができ、その状況が訪れた時に判断し使い分けやすくなります。
ある程度高いレベルまでいくと、戦術やスキルで大きな差は出てこなくなります。
そこからは表と裏の駆け引きになり、その駆け引きこそがバスケットボールの醍醐味だと個人的には思っています。
あくまでもスキルトレーニングというのは、バスケットボールという競技で「勝利する」という目的における確率を最大化するための手段であり、スキルを身につけること自体が目的なのではないいう認識が重要なのではないかと考えています。
次に『スキルスタッキング』です。
スキルを積み重ねていくという意味ですが、これは一回の練習ですごく上手くなることはなく、日々の積み重ねでしか上達することはないという考え方と、たくさんのスキルを積み重ね(組み合わせ)て一連のムーヴへと繋げることができるため、何か一つの動きだけをマスターしたからといって大きな変化がわけではなく、様々なスキルの習得が必要だという考え方です。
「これさえやれば上手くなる!」ということはありませんし、たった一回実績のあるコーチから指導を受けたからといてすごく上手くなるわけではないので、これらのキーワードをもとに日々継続してコツコツと練習を積み重ねていくことが上達への1番の近道だということを選手たちには理解してもらいたいと思います。
選手・コーチとしてだけでなく人として
──スキルトレーナーとして最も嬉しいのはどんな時ですか?
福井
選手たちの成長を間近で感じることができた時は本当に嬉しい瞬間です。
「試合でのパフォーマンスが良かった」、「大会で良い結果が出た」など、関わっている選手たちにバスケットボールという競技を通じて幸せを感じてもらえるのはコーチとしてやりがいを感じる時です。
また、バスケを通じてそういった選手やコーチと出会えることにも喜びを感じます。
結局は人がやっているエンターテイメントの一つですから、競技を通じて素晴らしい人達とたくさん出会い、同じ目標に向かって情熱を注ぎ、苦楽を共にできるのはスポーツを仕事にしているからこその喜びなのかなと思います。
それぞれが違ったバックグラウンドで生きてきた中でご縁があって出会うことができ、同じ時間を共有できるというのは本当に素晴らしいことだと思います。
──プロを目指している選手やバスケを仕事にしていきたいと考えている人達に大切にしてほしいことはありますか?
福井
『人間性』と『準備』だと思います。
プロ選手からアンダーカテゴリーの選手まで沢山の選手とプレーし、指導してきましたが、周りから必要とされる選手は必ず素晴らしい『人間性』を持っています。
もちろんプロ選手などを目指すにあたってバスケットボールそのものの競技力は大前提大事ですが、バスケが上手いからといってプロになれるわけではありません。
応援してくれるブースターや、サポートしてくれるスポンサー、チームスタッフなど、自分が見えていないところで自分たちのためにどれだけ多くの人たちが支えてくれているのかということを、選手自身が理解し感謝の気持ちを持って日々バスケットボールに向き合えるかどうかが大切です。
私自身選手時代にしっかりと理解できていたかというと「?」ですが、今コーチとして裏方にまわり、違った角度から物事を見ると、本当に沢山の人の協力があってバスケが出来ていたんだなと気付かされました。
当たり前のように感じるかもしれませんが、挨拶が元気よくできるとか、ありがとうとごめんなさいが言えるかどうか、他人を敬い、困っている人を助けられるかどうかなど、一見当たり前のことをできるかどうかは、人から応援される選手・スタッフという立場においてものすごく大切だと感じます。
『準備』においては、いつ自分の順番が来ても良いように日々準備をし続けることです。
いざチャンスが来てから準備をし始めるのでは遅く、日々チャンスに備えておかなければなりません。
そのためには1分1秒も無駄にしないような意識が必要です。
例えば、
・「体育館が開く時間に体育館に来る人」と、「体育館が開く時間に動ける準備が整っている人」ではどちらが準備が整っているか?
・「練習前の時間に友達を話しながら適当にシュートを打っている選手」と、「黙々と課題を持ってシュートを打っている人」ではどちらが準備が整っているか?
・「試合中ベンチで試合と関係ない話をしている選手」と、「コートにいる選手に向かって声をかけ続けている選手」ではどちらが準備が整っているか?
・「家でダラダラSNSを眺めている選手」と、「対戦相手の試合映像を見ている選手」ではどちらが準備が整っているか?
など。
私が見てきた周りから尊敬される選手は間違いなく後者です。
自分たちがバスケットボールという競技でお金を稼いでいるという自覚と一つの試合一つのプレーに人生を賭けているという覚悟が日々の『準備』に表れているように感じます。
決して難しいことではなく誰しもが今日から出来ることです。
地味で数字や目立った形に表れないけれど継続することで必ず良い結果が出ると私は信じています。
『ディテール』の量と『ハードワーク』の質
──Bリーガーだけではなく、子どもたちにもトレーニングを行っています。レベルの差があることは明らかですが、教える上での共通点や違いはありますか?
福井
違いがあるとすれば求める『ディテール』の量だと思います。
プロレベルの選手になれば細かい戦術やその時の状況によってかなり細かい内容の指導になります。
カテゴリーが下がっていけば行くほど戦術的な要素より、ファンダメンタルとしての細かいマイクロスキルや体の使い方というようになっていくと思います。
求める『ディテール』の量に違いはあれど、どのカテゴリーにも共通しているのはやはり#HARDWORK #INTENSITY #ENERGY です。
バスケットボールへの情熱や愛情を一つ一つのプレーで表現してほしいですし、そういったエネルギーに満ち溢れている選手は必ず上手くなると思います。
ただ、ハードワークといっても闇雲に頑張るのではなく、正しい根拠と理由を持ってハードワークすることが大事です。
なぜこの練習が必要なのか、どうやったらより良い練習ができるのかというのを選手自身が考えられるようになることが大切だと思いますし、上達する選手にはカテゴリーに関係なく、積極的に質問してきたり、自ら考えて行動できる選手は多いように感じます。
『バスケを仕事にできる環境』を作ることが目標
──コーチとしての目標を教えて下さい。
福井
日本に沢山スキルコーチを増やしていくことはもちろん、選手・コーチが日々レベルアップできる環境を作っていきたいと思っています。
スキルやバスケットボールの戦術的な会話が当たり前のように行われ、誰しもが当たり前のようにスキルトレーニングをするような世界線にしていきたいです。
まだまだ日本はバスケ後進国ですが、現在はアジアで1位の国になりました。
これからBリーグも世界で2番目のプロリーグを目指していくという目標があります。
そういった中で、これからさらに日本のバスケ界を良くしていくためには、細分化され研究されたバスケットボールを広く深く文化として根付かせていくことが大切だと思います。
選手の年俸はこの数年でかなり上昇し夢を見ることができる世界になってきました。
ただ、それを支えるコーチやスタッフの待遇はまだまだ成長の余地があります。
選手としてだけでなく、コーチやスタッフとしてバスケ業界を目指す人が増えていくことがバスケ業界の発展につながると信じています。
選手だけでなくコーチやスタッフのレベルが上がれば選手のレベルも上がっていくと思うので、そのためにもいま目の前で指導している選手たちに全力でバスケットボールの素晴らしさを伝えていくとともに、彼らが将来バスケを仕事にしたいと思えるような良い環境や文化を作っていきたいと思います。
そうしていくことで10年後、20年後には日本バスケが世界のトップレベルで戦えるようになっていけたら嬉しいですね。
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