本場NBAスキルコーチのマインドセットとは?
目次
多くのNBA選手をクライアントに抱えるスキルコーチ
──日本にいるあなたのことを知らない人のために自己紹介をお願いします。
ライアン
私はRyan Buhain(ライアン・ブハイン)です。2HANDS BASKETBALLの創始者であり、バスケットボールにおける主にスキル面のトレーニングを専門的にコーチングしている、I’M POSSIBLE *1 スキルコーチの一員です。拠点がフロリダ州オーランド地域になるため、主にサウスエリア(米国南部)にてI’M POSSIBLEのスキルコーチとして様々なカテゴリーの選手をトレーニングしています。NBA選手では、ケンバ・ウォーカーやヴィクター・オラディポ等元オールスターや代表クラスのスキルコーチをしています。他にもオフシーズン等は多くのNBAやGリーグの選手のトレーニングを行っています。
*1|Micah Lancasterが設立した世界的に有名なスキルトレーニングカンパニーであり、米国や世界の多くのスキルコーチはI’M POSSIBLE TRAININGの認定や影響を受けている
──スキルコーチとして活躍するまではどんなキャリアだったのですか?
ライアン
地元であるUCF(セントラルフロリダ大学)でスポーツ科学を専攻していました。学士号取得後に、世界的に有名なスポーツアカデミーであるIMGアカデミーでバスケットボールスキルコーチとしてのキャリアをスタートさせました。IMGアカデミーにはロシア、ギリシャ、ウクライナ、メキシコ、など世界各国、もちろん米国全土から多くの優秀なプレイヤーが集まってきます。そんな彼ら何百人の選手と仕事をした経験を活かし、2015年に自らのブランドとして2HANDS BASKETBALLを創立しました。
日本人の選手は「とても忠実」である
──日本とのビジネス的な取り組みはどのようにスタートしたのでしょうか?
ライアン
そもそものスタートは、数年前にとある方と繋がったことがキッカケで日本との交流は始まりました。日本にも行き様々な場所でクリニックを開催しました。その後、色々な縁があってSHOEHURRY!と繋がりました。2019年に日本の大学生向けキャンプということでフロリダに来てくれたことが始まりです。
──SHOEHURRY!のスキルコーチとしての立場も兼務するようになりましたね。
ライアン
最初のキッカケとして、オーランドまで私のトレーニングを受けにやってきてくれたので、いわゆる一般的なゲームシチュエーションのトレーニングから離れて、私たちのようなスキルコーチがどのようなスタイルでトレーニングを行っているのかを紹介しました。バスケットボールが日々進化していく中で、”スキルの強化”という面に特化したトレーニングの重要性を日本のバスケットボール界でも広げるためには、SHOEHURRY!というコンセプトはとても良いプラットフォームであると感じました。何度もやり取りをしていく中で、信頼関係も生まれましたし、結果としてSHOEHURRY!のスキルコーチという立場になっているということですね。
──オフシーズンにはSHOEHURRY! PRO CAMPとして日本のBリーグの選手たちとのキャンプもしましたが、彼にはどんな印象を持ちましたか?
ライアン
「とても忠実である」ということが一番の印象です。私が説明する時は熱心に聞いてくれますし、質問をしてきたりして、一つ一つのディテールを掴もうとする熱量を感じました。この経験は私にとてもすごく新鮮でした。というのも、アメリカの選手に対してワークアウトを行う時は 、まず熱量や努力といったものを教えることから始まり、その後スキルトレーニングを行うのに対して、日本の選手に対しては熱量や努力といったものを教える必要がなかったです。熱量がすでにある、努力というものがどういうものかを理解しているマインドセットを持つ選手に対してのコーチングであれば、私の本来の仕事であるスキルトレーニングという部分により集中できるので、教えていてとても楽しいです。
──マインドセットとしてワークアウトに対する熱量や努力の意味を知っているということは非常に大切だということですね。
ライアン
間違いないと思います。私がスキルトレーニングを担当しているNBAのスター選手たちは一つ一つのワークアウトに対する向き合い方は本当にすごいものがあります。だからこそNBAという世界最高峰の舞台で戦い続けることが出来ているのだと思います。これは日本のBリーグであっても同じマインドセットが必要になると思います。
トレーニングが効率的かつ効果的である状態を保つ上でも常にアップデートが必要
──最初にキャンプに来た時と比べて、あなたの教えるスキルがかなりアップデートされていたように感じました。「新しいスキルを早く教えたい」ということを仰ってましたが、スキルコーチとしてスキルをアップデートし続けるということはなぜ重要なのでしょうか?
ライアン
例えば、コンピューターのソフトウェアやプログラムは、コンピューターの性能をより効率的に使うためであったり、使う人にとってより便利であり続けるようにするため日々進化しています。私はスキルトレーナーを同じようなものだと思っていて、だからこそより高い効率や良い機能を求めて日々アップデートしていく必要があると思っています。そうしていくことで、”ユーザー”に対してより多くの価値を提供できるからです。なので私は、私がトレーニングする選手にとってより効率的で、効果的である状態を保ってもらうために常にアップデートしています。
──そのような姿勢は選手自身にも同様に持っていてもらいたいものですね。
ライアン
おっしゃる通りです。トレーナーやコーチがアップデートし続けているなら、高いレベルにあるプレイヤーがそれを出来ないわけがないです。特に選手たちは自分たちの得意なフィールドで戦っているわけなので、彼らのような選手こそキャリアを通して常にアップデートし続けることで自身の価値が最大化していくものだと思っています。そのサポートを我々は常にしたいと思っています。
バスケットボール選手である以前に一人の人間として関係性を築くことへの喜び
──スキルコーチとして最も嬉しいのはどんな時ですか?
ライアン
まずは、トレーニングしている選手がスキルを身につける瞬間です。何百、何千と失敗をしながらも、最後にはスキルを身につけた瞬間の選手の喜びを共有できるのは非常に喜ばしいです。次に、選手たちそれぞれ、またSHOEHURRY!のような団体と関係性を築けることにも喜びを感じています。私たちはバスケットボール選手ではありますが、それ以前に一人の人間でもあります。人間同士が、一つの目標に向かって物事に取り組み、助け合うことで出来る繋がりや絆というものにも喜びを感じます。
なぜならば、このプロセスにおいて、ただただ私が一方的に選手たちに教えるのではなく、私も選手に教えていく中でコーチとして成長していくことができるからです。ありがたいことに、世界中からトレーニングのオファーを頂きます。世界各国に行き、選手たちと繋がりが出来ることでまた一つ一つ絆も増えていきます。それぞれの選手や団体によって考え方や正確に違いはあります。ただ、それぞれに合わせたアプローチを取っていくことで、関係性を作り上げていくことに意義があり、それによってできる絆が私にとっては財産です。
──以前大学生向けのキャンプに参加していた、渡辺翔太選手 *2や植松義也選手*3がプロで活躍しています。彼がプロを目指し、プロとして成功するために大事な経験としてSHOEHURRY! FLORIDA CAMPを挙げていました。
ライアン
それはとても嬉しいことです!私は些細なことしかしていないと思っていますが、あえて私がしたことを挙げるとすれば、彼の「メンタリティーを変化させた」ことと、「バスケットボール選手として成長するために何をすべきなのか」という点で、これまでとまた違った視点を与えたこと。この2つだと思っています。従って、彼がすべきことは、これまで継続してきたことを続けつつ、トレーニングで学んだことを日々のプレイで活かすことでしょう。私のトレーニングを受けなかったとしても、彼は彼ですし、全ては彼が掴み取ったものです。ただ、自分の教えたことがより良いプレイヤーになるために少しでも活かされていれば嬉しいですね。
*2 仙台89ERS 渡辺翔太
*3 琉球ゴールデンキングス 植松義也
教えるカテゴリーによって異なるのは要求するディテール量
──あなたはNBA選手だけではなく、子どもたちにもトレーニングを行っています。レベルの差があることは明らかですが、教える上での共通点や違いはありますか?
ライアン
もちろんあります。私が教えている以上、私にはコーチとして選手を成長させる責任がありますし、選手にとっても年齢やカテゴリーに関係なくワークアウトに真摯に取り組むという責任があると思っています。違いを挙げるとすれば、要求するディテールの量です。プロ選手など高いレベルにある選手に対しては、要求するディテールはもちろん増えていきますし、選手たちも様々なディテールにこだわって、それを処理できる存在にいなければなりません。それに対して、子どもたちはそれらディテールを同時処理する能力にまだ限界があるため、要求するディテールに差が出てきます。ただ、コーチと選手お互いに責任を持つということに関しては、誰に対しても行うことで、コーチとして必要なマインドセットだと思っています。
──NBAをよく見る人や選手には聞かれる質問かもしれませんが、あなたがトレーニングを行っているNBA選手以外で、技術をみて学べる選手を挙げるとすれば誰でしょう?
ライアン
どんな選手からでも色んなことを学べると思いますが、特に若い世代の選手からは多くのことを学べるでしょう。個人的にも好きな選手でもありますが、例えばトレイ・ヤングやルカ・ドンチッチはとても効果的なバスケットボールをプレイします。見ていて非常に参考になる部分は多いと思います。また、細かい部分で言えばカイリー・アービングのフットワークやドリブルなどいわゆるディテールの部分は学べるところが本当にたくさんあると思います。実際に私もスキルトレーニングの現場でカイリーのスキルを紹介することが多々あります。まずは自分が学びたい部分がどこなのかを理解することから始めて、自分がより強化したい部分に集中することができれば、高いレベルにある選手であればどんな選手からも学ぶことができると思います。
世界中のスキルコーチを育成することが目標
──個人としての目標を教えて下さい。
ライアン
まず、スキルコーチを育てるためのスクールやシステムを作りたいと思っています。私が培ったメソッドやカリキュラムを共有して、より多くのスキルコーチを増やすことができれば、より多くの選手がトレーニングを受けることができます。そういったスクールやシステムを通じて、世界中で多くのプレイヤーとのネットワークを広げていくことで、より良い環境を構築していくことが私の目標です。そういう意味ではSHOEHURRY!のプログラムと考え方は同じですね。より良い環境を一緒に作っていきたいです。
──ありがとうございます。特にあなたが行っているようなトレーニングは世界中で需要があると思います。特に日本やヨーロッパでさえも練習はあまりスキルのディテール面には着目していないですし、個別でスキルトレーニングもあまり行っていないようなので、間違いなく需要があると思います。
ライアン
いままさに続けていることですが、より多くの海外(米国以外)の選手ともワークアウトを行っていき、世界中に発信し続けていくことで、スキルトレーニングにおける1つのブランドとして私の名前も広がっていくことも将来的な目標です。
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